近代の最大の娯楽ともいえたオペラは、モンテヴェルディの時代より現代まで数多の作品が誕生してきました。私が今までに鑑賞した作品、約100作品の中で特に重要なものとその作品の作曲家を簡単な紹介でまとめます。特に有名な作品は後日個別のみどころとあらすじの紹介もしていく予定です。第一弾はオペラ誕生の国・イタリアオペラ編です。
ドイツオペラ編はこちら。
その他の国編はこちら。
作品紹介の中の上演時間は、休憩は含めません。また、演出等によりある程度時間の前後があります。
上演頻度は、
S:非常によく上演される
A:よく上演される
B:時々上演される
C:たまに上演される
D:めったに上演されない
で分類します。
ヴェルディ
オペラ生誕の地イタリアのオペラ作曲家の中でも頂点に立つ作曲家がヴェルディでしょう。同世代のドイツオペラの巨匠ワーグナーと同じ1813年に生まれたヴェルディは28のオペラ作品を残し、ほとんどの作品が現在でも主要レパートリーとなっています。声の力を最大限に引き出すヴェルディの作品は声に注目して聴いてみましょう。
椿姫(La Traviata)
上演時間:約2時間
上演頻度:S
デュマ・フィスの小説「椿姫」を原作とした、高級娼婦ヴィオレッタの悲恋の物語。ラ・トラヴィアータのタイトルは日本語に直訳すると「道を踏み外した女」になるが、日本では原作のタイトル「椿姫」で呼ばれることが一般的です。
乾杯の歌、花から花へ、プロヴァンスの海と陸など、聞きなじみのある有名な旋律も多く、上演時間が気にならなければ(2時間はオペラでは一般的な長さではある)初心者がオペラ入門するのにもぴったりな作品です。音楽的な最大の聴きどころは、第2幕のヴィオレッタとジェルモンの二重唱の部分がお勧め。
アイーダ
上演時間:約2時間30分
上演頻度:A
スエズ運河開通記念としてヴェルディに作曲を委嘱した作品。当初は断ったヴェルディですがスエズ運河開通翌年の再度の依頼の際には、ライバル・ワーグナーに委嘱するかもというエジプトサイドの作戦が功を奏したのか引き受け、エジプトを舞台とした、恋愛と宗教と国家というヴェルディおなじみの設定の名作が完成しました。
第2幕の凱旋行進曲はサッカーのテーマソングとして知らない人はいないレベルの旋律。この場面は演出家の腕の見せ所でもあります。冒頭の清きアイーダなどほかにも有名な旋律が盛りだくさん。この作品も時間さえ気にならなければ初心者お勧めの作品です。音楽的な聴きどころはラストシーンのアイーダとラダメスの二重唱にアムネリスの追悼の歌が重なるところ。
オテロ
上演時間:約2時間15分
上演頻度:A
数々の名作でオペラ王の名前を不動のものとしたヴェルディが最後にたどり着いた悲劇オペラの頂点ともいえる作品。シェイクスピアの戯曲「オセロ」を原作都市原作以上に有名な作品と言って過言ではないでしょう。
開幕のオテロの勝利の歌の、最初にして最後の勇ましい歌声から、ヤーゴの策略によって疑心暗鬼になっていく声の変遷が聴きどころ。第2幕のヤーゴの「無慈悲な神を信じる」は歌とも叫びともとれる、ヤーゴの心情をよく表している名場面。
ファルスタッフ
上演時間:約2時間10分
上演頻度:A
初期の失敗作以来、一貫して悲劇作曲家だったヴェルディが人生の最後に遺した喜劇作品。作曲家でもあったボーイトの台本をもとに最晩年のヴェルディはゆっくりと楽しむようにこの作品を仕上げたといわれています。
壮大なアリアはないものの、随所にみられるアンサンブルが聴きどころ。特に最後の場面、ファルスタッフから始まる全員のフーガによるアンサンブルが極めつけです。
リゴレット
上演時間:約2時間
上演頻度:A
椿姫・トロヴァトーレとともにヴェルディ中期3部作と呼ばれる傑作。作品のあらすじ自体は結構ひどい話ではありますが、音楽は最高に素晴らしいです。醜い宮廷道化師が主人公という設定は、今までのオペラではなかった斬新な設定。
第3幕の「女心の歌」はオペラアリアとして5本の指には入るであろう有名アリア。1幕後半で歌われるジルダの「慕わしい人の名は」も技巧を凝らした名曲。第2幕で歌われるリゴレットの「悪魔め、鬼め」は叫びにも似た、リゴレットの心情をよく表している音楽で最大の聴きどころです。
トロヴァトーレ
上演時間:約2時間10分
上演頻度:C
主要登場人物4人のうち3人までもが亡くなってしまう悲劇。ソプラノ、メゾソプラノ、テノール、バリトンの4人とも主役級の声が必要となるせいもあってか、名作の割に上演頻度は高くはないです。
マンリーコのハイCをはじめ、アズチェーナの「炎は燃えて」など聞かせる曲がたくさん。主要4名の心情をよく表した曲がずらりとならび、声の競演を楽しむにはぴったりの作品。上演頻度が高くないのが残念なところです。
ナブッコ
上演時間:約2時間
上演頻度:B
ヴェルディのオペラ作曲家としての名声を確立した作品。初期の作品「一日だけの王様」の失敗で気落ちしていたヴェルディはこの作品の大成功で立ち直り、以後オペラ王への道をひた走ることになります。作曲された当時のイタリアは小国が乱立して統一もままならぬ状態であり、第3幕に歌われる合唱「行けわが想いよ、金色の翼に乗って」は統一を渇望するイタリア人の心を大いに刺激しました。この歌は現在でもイタリア第二の国歌と呼ばれるほどイタリア人に愛されている名曲です。
ドン・カルロ
上演時間:約3時間
上演頻度:B
もともとはパリオペラ座のために書かれたためフランス語で作曲され、のちのイタリア語版改定作もある作品です。宗教と国家に恋愛がからまるヴェルディ得意の設定のもと、バスの名アリア「一人寂しく眠ろう」やメゾソプラノの難曲「呪わしき美貌」などの名アリアをはじめ、テノールとバリトンの名二重唱・友情の歌や珍しいバス同士の掛け合いなど、声を堪能できる作品です。
仮面舞踏会
上演時間:約2時間
上演頻度:C
スウェーデン国王グスタフ3世の暗殺事件を題材としていますが、作曲当時は検閲で国王の暗殺などもってのほかということで、ボストンに舞台を移した設定で作り上げられた作品です。現代ではオリジナルの設定に戻しての上演もあります。
主人公がテノール、その妻がソプラノ、結果的に敵役となるバリトン、小姓役がズボン役(女性が主に若い男性を演じる)となるソプラノ、魔女役のメゾソプラノとオペラ配役でよくある構成のそれぞれに聴きどころのある曲が用意されています。
運命の力
上演時間:約3時間
上演頻度:C
序曲は単独でもよく取り上げられることのある、この作品の結末を暗示した名曲。
運命に翻弄される主人公の感情が良く音楽に表れている作品です。
プッチーニ
ヴェルディの後、娯楽が多様化しつつある時代の中、イタリアオペラを延命させたといっても良い作曲家がプッチーニです。聴衆にどのような作品が受けるかをプッチーニはよくわかっていた作曲家でもあります。イッリカ、ジャコーザという優れた台本作家とともに仕上げた、お涙頂戴のプッチーニのオペラは比較的短時間な作品が多く初心者の入門にちょうど良いオペラに仕上がっているものが多いです。
蝶々夫人
上演時間:約2時間15分
上演頻度:S
日本を舞台にしたプッチーニの代表作の1つ。日本を舞台としているだけあって日本ではとりわけ上演機会の多い作品です。日本人女性が主役なだけに日本人ソプラノ歌手が世界へ出ていくときに重要なレパートリー作品になっています。
アメリカ国歌や日本の歌曲の旋律の一部がところどころ登場しているところも面白い作品。20世紀初頭の作品の割には日本への理解度はかなりリアルといえる作品。蝶々さんの歌う「ある晴れた日に」はとりわけ有名なアリア。
ボエーム
上演時間:約1時間40分
上演頻度:A
青春の息吹が感じられる悲恋物語。上演時間が比較的短く、ロドルフォの「冷たい手」、ミミの「私の名はミミ」、ムゼッタの「私が街を歩くと」を始め有名なアリアも多く、初心者にお勧めの作品の1つです。演出がオリジナルに忠実であれば、第2幕のパリ・カルティエラタンの場面は見どころの1つになります。
トスカ
上演時間:約2時間
上演頻度:A
主要登場人物3人がすべて亡くなってしまう悲劇作品。トスカの歌う「歌に生き、恋に生き」を始めカヴァラドッシの「妙なる調和」、「星は光りぬ」など有名アリアも盛りだくさん。演出の見どころは、第1幕最後の教会でのテ・デウムのシーン。
トゥーランドット
上演時間:約2時間
上演頻度:B
プッチーニの未完の遺作となった大作。初演の際、有名指揮者のトスカニーニはプッチーニが書き上げた最後の場面で指揮を終え、「作曲家はここまで書き上げて亡くなりました。」と言って初演を終え、アルファーノが補筆して完成させた作品最後までは次の公演で初めて演奏されたといいます。カラフの雄大なアリア「誰も寝てはならぬ」をはじめ、リューの抒情的なアリアなど聴きどころもたくさん。
マノン・レスコー
上演時間:約1時間50分
上演頻度:C
プッチーニの出世作となった作品。プレヴォの小説「騎士デグリューとマノン・レスコーの物語」は多くの作曲家を刺激するようでこの作品のほかにもマスネの「マノン」など同じ題材のものが複数あります。マノンのアリア「この柔らかいレースにくるまれていても」、「一人寂しく」などが聴きどころ。見どころは最終場面、アメリカの荒野にさまよいマノンが亡くなる場面。
ジャンニ・スキッキ
上演時間:約50分
上演頻度:C
プッチーニは晩年、1幕もののオペラを3つ書き上げ、「外套」「修道女アンジェリカ」とともに三部作と呼ばれています。三部作を一日で公演したり、ほかの短い作品とともに上演されることも多い作品。ラウレッタの歌う「私のお父さん」がとりわけ有名なアリアで聴きどころ。上演時間の短い喜劇なのでオペラ入門としてお勧めの作品になります。
ロッシーニ
ベートーヴェンのやや下の世代にあたるロッシーニは、ベートーヴェンが交響曲などで名声を博していたころ、オペラにおいてはウィーンを席巻するほどの人気を誇っていたそうです。37歳でオペラ作曲からは引退してしまった後は、フランス料理のいくつかに名前を残すなど料理の世界でも名を馳せた多才な人物。速筆の天才で自らの曲を色々と転用することも多かった作曲家です。ロッシーニのオペラは声をころころと転がす独特の歌いまわしが特徴でロッシーニが得意な歌手による公演は見ごたえがあります。イタリアのペーザロで毎年開催されているロッシーニ・オペラ・フェスティバルは、ロッシーニ作品だけを取り上げる音楽祭で一度行ってみたいと思っている音楽祭でもあります。
セビリアの理髪師
上演時間:約2時間30分
上演頻度:B
ロッシーニを代表するオペラ・ブッファ(軽快で喜劇的なオペラ)で、原作はボーマルシェの同名の喜劇。モーツァルトの「フィガロの結婚」はセビリアの理髪師の後日談に当たるものになります(モーツァルトはロッシーニよりも前の時代の作曲家ですので書かれたのはモーツァルトのフィガロの結婚のほうが先)。フィガロの歌う「街の何でも屋」、ロジーナの「今の歌声は」、バルトロの「陰口はそよ風のように」などの愉快なアリアが聴きどころ。喜劇なので第1幕最後の混乱の場面など愉快な場面が見どころになります。
チェネレントラ
上演時間:約2時間10分
上演頻度:B
あの有名な「シンデレラ」を題材とした作品なので、ガラスの靴の代わりに腕輪が使われているなど若干の違いはあるものの、あらすじが分かりやすいので初心者にお勧めの作品。オペラの主役は、男声ならテノール、女声ならソプラノが務めることがほとんどですが、ロッシーニ作品では低音役が務めることも多く、この作品のチェネレントラもメゾソプラノが主役を張る作品です。第2幕の混乱の六重唱が一番の聴きどころ。
ウィリアム・テル(ギョーム・テル)
上演時間:約3時間45分
上演頻度:D
序曲が非常に有名で単独で演奏されることも多いですが、オペラ自体はめったに上演されることがありません。2024‐25シーズンで新国立劇場が取り上げ、初めて聞くことができました。ウィリアム・テルが息子の頭の上のリンゴを射抜くシーンが有名。オリジナルはフランス語版で、いわゆるグランドオペラよろしく途中にバレエ場面が挿入されるなど長大な作品となっています。
ドニゼッティ
オペラ好きにとっては有名作曲家で、そうでないとクラシック好きでも意外と知らない作曲家のドニゼッティ。女声が大活躍するオペラが多く、ライバルだったベッリーニとともにベルカントオペラの代表作曲家です。速筆で知られ数十の作品を残していますが忘れ去られてしまったものも多いです。
愛の妙薬
上演時間:約2時間
上演頻度:B
登場人物すべてが愛すべき人物の喜劇で、カップルでの観劇もお勧め。ネモリーノのアリア「人知れぬ涙」は名曲中の名曲。登場人物それぞれに性格にあった曲が用意されていて面白い。特にドゥルカマーラの愉快な歌は聴きどころであると同時にブッフォ役なので演技のうまい歌手の場合見どころにもなります。
ランメルモールのルチア
上演時間:約2時間20分
上演頻度:C
ドニゼッティは当時流行した狂乱オペラをいくつか書いていますが、その決定版ともいえる作品。ルチアの歌う狂乱の場の長大なアリアはコロラトゥーラソプラノの最大の腕の見せ所で最大の聴きどころ。エドガルドの歌う「この世の別れ」なども聴きどころ。
ドン・パスクァーレ
上演時間:約1時間50分
上演頻度:C
愛の妙薬と並ぶドニゼッティの喜劇作の代表作。ノリーナが態度を豹変させる場面は聴きどころと見どころが詰まった場面。
ベッリーニ
ドニゼッティが速筆で次から次へと作品を完成させていったのに対し、ライバルのベッリーニは1つ1つの作品をじっくりと仕上げていった作曲家です。そのため作品数は少ないですが現在でも上演される作品は非常に完成度の高くベルカントオペラの頂点といっても差し支えないものになっています。
ノルマ
上演時間:約2時間30分
上演頻度:C
アリア「カスタ・ディーヴァ」がとりわけ有名な作品。物語自体は悲劇的な内容ですが、音楽は抒情的で美しく、まさにベルカントオペラと呼べる作品です。
夢遊病の女
上演時間:約2時間30分
上演頻度:C
ノルマと並ぶベッリーニ代表作で、抒情的な旋律がなにより特徴。何と言っても美しい旋律が聴きどころの作品です。
モンテヴェルディ
オペラの始まりを告げる作曲家。現在残っている最古の作品を書いた作曲家です。日本では上演の機会が多くはありませんが、ヨーロッパでは古い時代のオペラも結構上演機会があり最初期の傑作に触れ合うことができる機会も多いです。
オルフェオ
上演時間:約1時間40分
上演頻度:C
初期のオペラ作品は、ギリシア神話、とくに音楽関連のオルフェウス主題が多いです。その中でも一番有名にして歴史に名を残す作品。まだオペラというものが形になっていなかった時代、まだ不完全とはいえ独唱・合唱をバランスよく配置し、劇の進行を進めていく見事な作品になっています。
ジョルダーノ
ヴェルディとプッチーニの間の時代に位置する作曲家。当時流行していたヴェリズモを代表する作曲家の1人です。
アンドレア・シェニエ
上演時間:約1時間45分
上演頻度:C
フランス革命時に実在した詩人をモデルとした悲劇作品。恋愛と対立というオペラの王道ストーリーのもと、主役のシェニエのアリアが特に美しく聴きどころ。


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