名作オペラと作曲家紹介の第二弾、ドイツオペラ編です。イタリアオペラはヴェルディで頂点に達しプッチーニで時代が終了した感もありますが、ドイツオペラは様々な試みとともに現代までいろいろな作品が誕生している分野です。もっとも、現代芸術全般に言えることですが、現代の作品は難解で聴きづらいという点は考慮しておく必要があるかもしれません。
イタリアオペラ編はこちら。
その他の国編はこちら。
作品紹介の中の上演時間は、休憩は含めません。また、演出等によりある程度時間の前後があります。
上演頻度は、
S:非常によく上演される
A:よく上演される
B:時々上演される
C:たまに上演される
D:めったに上演されない
で分類します。
モーツァルト
モーツァルトの時代はオペラはイタリア語が基本で、実際彼の作品の中でも多くはイタリア語で書かれたものなので、ドイツオペラに分類するかどうか迷いましたが、ドイツオペラの先駆け作品も残しているのでこちらに分類しました。天才作曲家モーツァルトは、ほとんどすべての分野に傑作を残していますがオペラにおいても多くの不朽の名作を残しています。
フィガロの結婚
上演時間:約3時間
上演頻度:S
ロッシーニのセビリアの理髪師の後日談にあたるフィガロの結婚はモーツァルトのオペラの中でもとりわけ人気の高い作品です。序曲は単独で取り上げられることも非常に多い名曲。ケルビーノの「恋とはどんなものかしら」やフィガロの「もう飛ぶまいぞこの蝶々」も有名で聴きやすいアリアです。馴染みある旋律が多く、ストーリーは喜劇で見どころも多彩なこの作品は、上演時間の長さを除けば初心者のオペラ入門にも向いています。イタリア語作品。
魔笛
上演時間:約2時間30分
上演頻度:S
夜の女王の2つの強烈なアリアをはじめ、パパゲーノの楽しいアリアなど登場人物の性格ごとに全く異なるアリアが用意されている名作中の名作。各登場人物のアリアすべてが聴きどころと言っても過言ではない作品です。ジングシュピールとよばれる、歌とセリフ両方で物語が進んで行くドイツ語オペラです。モーツァルトの最晩年に書き上げられたこの傑作はモーツァルトも満足の仕上がりだったようで、モーツァルトが亡くなる直前にはもう一度パパゲーノのアリアを聞きたいと言ったともいわれています。ドイツ語のセリフの部分で笑いを取る部分もあるので、日本で観劇するときは字幕が頼り。
ドン・ジョヴァンニ
上演時間:約2時間10分
上演頻度:A
ダ・ポンテ台本の三部作の二作目。喜劇と悲劇が混ざり合ったような作品で、序曲や最後のドン・ジョヴァンニの地獄落ちのシーンの音楽などはモーツァルトの時代には考えられなかった劇的な仕上がりになっていて最大の聴きどころになっています。レポレッロのカタログの歌やツェルリーナ(ゼルリーナ)の薬の歌なども有名な曲。
コジ・ファン・トゥッテ
上演時間:約2時間45分
上演頻度:B
フィガロの結婚の中にでてくるセリフ「コジ・ファン・トゥッテ(女とはみんなこのようなものだ)」をテーマにして、時のオーストリア皇帝ヨーゼフ2世がモーツァルトに新たなオペラを作らせて完成した作品。当初はそこまでの評価がなかった作品のようですが現代ではモーツァルトの傑作オペラの一作品としての地位を築いています。恋人2名が心変わりしていくところの音楽が最大の聴きどころ。重唱の多い作品なのでそこも聴きどころです。イタリア語作品。
後宮からの誘拐(逃走)
上演時間:約2時間10分
上演頻度:D
魔笛と同じくジングシュピールと呼ばれるドイツ語歌芝居。コンスタンツェやブロンデの超高音アリアからオスミンの超低音アリアまで様々なアリアが聴きどころ。特にバッソブッフォと言われるバスの喜劇役オスミンはコミカルな演技力も必要なうえにlow-Dの超低音をのばして歌う場面があり、この役を歌える歌手が多くないせいか、なかなか公演には巡り合えない作品でもあります。
ワーグナー(ヴァーグナー)
イタリアオペラの巨匠ヴェルディと同じ1813年生まれのワーグナーは、ドイツオペラの頂点に君臨する作曲家。ワーグナーまでの作曲家はピアノなどの演奏家でもありましたが、この御仁は指揮棒1本で音楽界の頂点に上り詰めた人物です。音楽のみならず台本からすべて1人で仕上げ、専用の劇場まで建設してしまう多才である一方、人間的には借金を繰り返して逃亡したり人妻を寝取ったり、ユダヤ人を極端に毛嫌いしたりと、あらゆる面で常人ではない天才といえるでしょう。ワーグナーの作品は一度癖になるととことんはまってしまう中毒性がある一方、演奏時間はどの作品も長大でとっつきにくい一面もあり好き嫌いが最も分かれる作曲家でもあります。バイロイト音楽祭などワーグナーを取り上げる音楽祭では多くの作品が毎年のように上演されますが、いずれも長大な作品であるため日本での公演は1‐2演目が1年に1回あればよいほうかもしれません。
ローエングリン
上演時間:約3時間40分
上演頻度:B
イタリアオペラの影響を受けているといわれるこの作品は、ワーグナーの作品の中では非常に聴きやすい旋律が多く、ワーグナー作品の宿命ともいえる上演時間が気にならなければ、ワーグナー入門作品として一番のお勧め作品です。第3幕の序曲から結婚行進曲に至る部分は有名で単独でもよく取り上げられる、演奏効果が非常に高い名曲中の名曲。終幕部分のローエングリンの語りの部分やオルトルートの強烈なアリアなど第3幕序曲以外にも聴きどころがたくさん。
トリスタンとイゾルデ
上演時間:約3時間50分
上演頻度:B
繰り返される転調と半音階の進行は、音楽史における一大傑作と評価されており、ワーグナーの中でも最高傑作に上げる人も多い作品。舞台上の動きは大きくはなく、音楽が主役の作品になっています。長大な作品なので一部分だけで十分という人は、前奏曲と最後の「愛の死」の部分を聴いてみるとよいでしょう。
タンホイザー
上演時間:約3時間
上演頻度:B
タンホイザーが愛した二人の女性、エリーザベトとヴェーヌスの音楽の違いが鮮やかな作品でそこが最大の聴きどころ。ワーグナー作品のお決まりである、女声の愛による救済によって終幕となります。パリでの上演の際に大幅な加筆が加えられ、パリ版ではバレエ音楽も挿入されています。ヴォルフラムの「夕星の歌」や巡礼の合唱も有名な旋律で聴きどころ。
さまよえるオランダ人
上演時間:約2時間20分
上演頻度:B
ワーグナー作品の中では短い上演時間の作品なので、上演時間が気になる方がワーグナー作品入門として聴くには一番のお勧め作品。ワーグナーが作風を確立した作品でよく取り上げられるワーグナーのオペラはこのさまよえるオランダ人以降の作品になっています。有名な序曲のほか、水夫の合唱など合唱部分も聴きどころ。
ニュルンベルクのマイスタージンガー
上演時間:約4時間20分
上演頻度:C
ワーグナーの作品は基本悲劇作品ですが、この作品は唯一の喜劇作品。序曲は単独でもよく取り上げられる名曲です。間抜けな敵役になるベックメッサーは、台本段階では当時ワーグナー批判の急先鋒だった批評家ハンスリックの名前になっていたそう。ベックメッサーの音楽はどこか抜けている音楽が割り当てられています。主人公ザックスが愛をあきらめる場面は、ワーグナーは当時の自分自身に重ねていたとも言われていてザックスの最後のモノローグも感動的な音楽に仕上がっています。
ニーベルングの指環
着想から完成まで実に26年もの歳月を要した空前絶後の大作。序夜、第一夜、第二夜、第三夜の4部構成からなり、通常の通しの演奏では、間に休憩日も挟まり1作品見るのに1週間近くかかります。ワーグナー作品では示導動機とよばれる特定の人物や事象などと音型が結びつけられた動機がよく登場しますが、このニーベルングの指環ではいたるところに示導動機がちりばめられています。
序夜 ラインの黄金
上演時間:約2時間30分
上演頻度:C
ニーベルングの指環は、台本は第三夜から書き始められ、それを補完する形で徐々にさかのぼって台本がかかれ序夜は最後に書かれてました。音楽は序夜から第三夜に向けて書かれています。幕切れの「神々のワルハラ入城」やニーベルングの重労働を彷彿とさせるテーマなどが聴きどころ。アルベリヒが指環に呪いをかける呪いの動機は今後頻繁に登場するのでチェックしておきましょう。序夜は休憩なしの1幕で2時間30分ぶっ通しになるので、ある意味一番長い作品にもなっています。
第一夜 ワルキューレ
上演時間:約3時間30分
上演頻度:B
指環の中で最も人気のある作品で、たまに第一夜単体で取り上げられることもあります。ワルキューレの騎行の部分の音楽はあまりにも有名な名旋律。また、幕切れ部分のヴォータンの告別と魔の炎の音楽もこれぞワーグナーという名曲です。指輪物語の最終テーマといえる、救済の動機はもちろん第三夜最終場面に登場するのですが、実はこのワルキューレにも登場してきます。登場場面にも注目してみましょう。
第二夜 ジークフリート
上演時間:約4時間
上演頻度:C
物語も折り返しにはいる第二夜は、後半の主人公ジークフリートがいよいよ登場します。第2幕の途中で作曲が長期間中断されたため、前半と後半では音楽的特徴にも変化が見られ、後半部分では示導動機の組み合わせも精緻になってきます。ジークフリートと大蛇の決闘場面は演出家の腕の見せ所。
第三夜 神々の黄昏
上演時間:約4時間30分
上演頻度:C
長かった指輪物語もこの第三夜でいよいよ終焉を迎えます。冒頭のジークフリートのラインへの旅、ジークフリートの葬送行進曲、ブリュンヒルデの自己犠牲など指輪物語のフィナーレを飾るかのように聴きどころが多く現れます。ワグネリアンは第三夜の救済を見るためにバイロイト詣でをしているとも言えるでしょう。
パルジファル
上演時間:約4時間10分
上演頻度:C
舞台神聖祝典劇と銘打たれた、ワーグナー晩年の最後の作品。ゆったりとしたテンポで進む音楽は好きな人はとことん好きになる、中毒性のあるワーグナーらしさ満開の作品です。キリスト教に詳しくないとなかなか内容を完全に取り込むことは難しい複雑な宗教思想に基づいた作品ですが、純粋に音楽を楽しめば普通の聴衆は十分でしょう。
リヒャルト・シュトラウス
イタリアオペラでヴェルディの後継者にプッチーニが現れたように、ドイツオペラではワーグナーの後継者としてリヒャルト・シュトラウスが登場します。初期作品はワーグナーのオペラ(楽劇)をさらに進展させることを目指した作品を書いたシュトラウスは、ばらの騎士でモーツァルトへの回顧ともいえる作品を仕上げ、音楽界の急進派からは批判される一方聴衆からは絶大な支持を得ました。現代芸術が進んでいる方向と受け手が望む方向の示唆ともいえるかもしれません。
ばらの騎士
上演時間:約3時間15分
上演頻度:B
シュトラウスのよきパートナーとなったホーフマンシュタールの台本による第二弾作品。ばらの騎士登場シーンの音楽、オックス男爵のウィンナーワルツなど名シーンは多いですが、何と言っても第三幕の女声3人による三重唱から若い2名のカップルの二重唱のシーンが最大の聴きどころ。ウィーンらしい音楽が求められる作品なので、ウィーンの音楽が得意な指揮者の公演を是非見たいところです。
サロメ
上演時間:約1時間45分
上演頻度:B
オスカーワイルドの戯曲「サロメ」をもとにした、耽美的かつ退廃的な作品。サロメが恍惚の表情で踊る7つのヴェールの踊りが最大の聴きどころにして見どころ。海外ではサロメがすべての衣装を脱いでしまうような演出もあります。最終場面のサロメのモノローグも壮絶な音楽です。
アラベラ
上演時間:約3時間
上演頻度:C
ホーフマンシュタールとのコンビでの最後の作品。仲違いと仲直りの恋愛というオペラ王道の設定ですが、20世紀の作品らしく音楽も台本も繊細精密にして艶やかでもあります。シュトラウスとホーフマンシュタールは、「ばらの騎士」で「フィガロの結婚」を「影のない女」で「魔笛」を、そして「アラベラ」で「コジ・ファン・トゥッテ」の改作を目指したとも言われていて、モーツァルトが20世紀に生きていたらこんな作品を残したのかななどと空想してみるのも楽しいです。
ナクソス島のアリアドネ
上演時間:約2時間
上演頻度:C
劇中劇の構造をとる作品。ツェルビネッタの超絶技巧のアリアはコロラトゥーラソプラノの腕の見せ所にして最大の聴きどころになっています。
ベートーヴェン
楽聖ベートーヴェンは、オペラは唯一フィデリオを残したのみで、交響曲やピアノソナタなど他分野での圧倒的な実績と比べると寂しいかもしれません。
フィデリオ
上演時間:約2時間
上演頻度:C
記念となるタイミングで演奏されることが多いが普段はあまり公演にお目にかかることがない作品。愛と自由の賛歌はいかにもベートーヴェンらしい曲で、交響曲第9番の予兆とも思えるような音楽が流れます。
ウェーバー
ベートーヴェンの1世代下の作曲家ウェーバーはドイツ初期ロマン派オペラの幕開けを告げる作曲家。動機による曲の統一などワーグナーの前触れともいえる作品を残したドイツオペラ史上非常に重要な作曲家にあんっています。
魔弾の射手
上演時間:約2時間20分
上演頻度:D
森の大好きなドイツ圏らしいオペラ。日本で公演にお目にかかることは多くはないがドイツ語圏では比較的多く上演される作品です。序曲の旋律は有名。
フンパーディング
ワーグナーの懐刀だったフンパーディングは、ワーグナーの死後に大人から子供まで楽しむことができるオペラ入門の決定版ともいえる「ヘンゼルとグレーテル」を残した作曲家。ワーグナーの懐刀だけあって当時の最先端の作曲技法による作品を残しました。
ヘンゼルとグレーテル
上演時間:約1時間25分
上演頻度:C
上演時間がオペラにしては短めであるところ、ストーリーがグリム童話のヘンゼルとグレーテルという誰でも知っている内容であること、音楽も当時の最先端技法を駆使した曲で構成されながら親しみやすさもあることと、初心者のオペラ入門作品としてうってつけです。ヘンゼルとグレーテルの内容そのままのストーリーなので聴衆も見どころが分かりやすいのもポイント。上演頻度が高くないところが残念なところ。
ヨハン・シュトラウス2世
ワルツ王としてウィンナーワルツの傑作を多数残したヨハン・シュトラウス2世は、晩年はオペレッタの作曲に力を入れるようになります。オペレッタでも大成功を収めたヨハン・シュトラウスはオペレッタの金の時代といわれる時代を作り上げました。
こうもり
上演時間:約2時間30分
上演頻度:A
格式の高いオペラハウスは、軽歌劇としてオペレッタは取り上げないところも多いですが、この「こうもり」だけは別格で特にドイツ語圏のオペラハウスの年末年始の定番作品になっています。序曲を始め単独でもよく取り上げられる名曲がずらりとあり聴きどころも多い作品です。オペレッタでは、狂言回しのセリフ役が登場することが多く、こうもりではフロッシュがその役目を務めます。ドイツ語で面白おかしいセリフをたくさん言ってくれるので、ここでは日本語字幕が頼り。
ベルク
十二音技法の創始者として近現代音楽史の重要作曲家であるベルクは、その技法を駆使してオペラ史においても画期的な作品を残しています。十二音すべてを利用する十二音技法は聞き手にとっては決して聞きやすいとは言えない音楽なのでオペラやクラシックにドはまりした後でトライする作曲家といえるでしょう。
ヴォツェック
上演時間:約2時間
上演頻度:C
オペラ史上非常に重要な作品といわれるベルクの代表作。聴きやすい旋律とは皆無問いも言える作品ですが登場人物の心情をストレートに表しているともいえる音楽です。
ルル
上演時間:約3時間
上演頻度:D
ヨーロッパの歌劇場ではときおり公演を見ますが、日本での上演は本当に珍しい作品。個人的にはヴォツェックよりは聴きやすい作品と言えるので、ベルクのオペラを見るときはルルから入るのがお勧めです。

コメント